【中学生・高校生向け】家庭でできる 思春期以降の子どもたちに進路を考えてもらうコツ 実践編
もくじ
【中学生・高校生向け】家庭でできる 思春期以降の子どもたちに進路を考えてもらうコツ 実践編
今回の記事では、
・「自分の進路を考えられない……」
・「自分の進路を考えると不安になってしまう……」
・「進路を考えようにも、そもそも社会のことを何も知らない」
という悩む中学生・高校生と、その保護者さまへ向けて、代表の塚﨑からお話します。
※本記事は2021年に公開した内容を加筆し再公開しています。
塚﨑 康弘(Tsukazaki Yasuhiro)
大分県中津市出身。学校嫌い・科目勉強嫌いを乗り越え大学進学するものの大学1年次で不登校。
大学卒業後、約2年間のニート期間を経て塾講師・家庭教師として活動しながら「学習支援塾ビーンズ」を設立。2015年に法人化後、代表。
好奇心旺盛だけど無趣味。こだわり多いけど毎日白Tシャツ。早稲田大学 人間科学部卒。
■インタビュー/詳しい自己紹介
・『東京都創業NETインタビュー』に代表・塚﨑が掲載されました!
・オデッセイ コミュニケーションズさまに学習支援塾ビーンズ代表・塚﨑がインタビューされました!
前提:将来のことを真剣に考えるのは大人だって怖い
前回の記事では、
〇極端に暗いニュースの摂取により、中学生・高校生の子どもたちは(保護者さまの世代よりも)将来のことを考えることに不安をおぼえている
〇中学生・高校生の子どもたちの進路や職業観を考える機会は不足している
についてお伝えしました。
中学生・高校生の子どもたちへ「いきなり自分の進路を考えさせることは効果的でない」ということはご理解いただけたうえで、では保護者さまはどうすればいいのか?
ここから、ご家庭で中学生・高校生のお子さんが進路を楽しく考えるために必要なコツについて具体的にお伝えしたいと思います。
子どもたちに進路を考えてもらう際の配慮と避ける事
「進路を押しつけられた」と子どもが感じないように配慮する
保護者さまが(ご自身も気づかぬうちに結果として)自分が希望する進路をお子さんへ押しつけてしまっていた… そんな事例もよく見受けられます。
詳しく言うと…
保護者さまが「中学生・高校生たちの社会は狭い」こと、「子どもたちは職種や働き方についても知らない」ことを知った際、
「子どもが限られた情報から、社会や働くことに対して、とんでもない誤解や錯覚をしているのではないか」
と不安を感じ、「選択肢の一つ」として自身の経験に基づく「社会の当たり前」や職業観を伝えるのです。
ただ、あくまで「選択肢の一つ」として提示したつもりでも、子どもたちは「親が望む進路」として受け取ってしまい、かえって子どもたちの進路選択の幅を狭め、彼らの主体的な進路選択を狭めてしまう…
その結果、子どもたちが
「僕はこういう進路にいかないといけない…でも、興味ないし、そもそもその進路にいける気がしない」
と、塞ぎ込んでしまう…そんなケースです。
こちらのプレスリリース「【受験シーズン】NPO法人第3の家族が家庭環境に悩む子どもとその親の進路希望比較表を公表。93.8%が進路希望に親子の差異あり。」でも、その様子が分かります。
保護者さまに前提としてご理解いただきたいことは「保護者さまの言葉だけで子どもの進路を誘導しようとしてもうまくいかない」ということです。
「親の言う通りにしておけば、幸せな道にいける」
といった言葉も
「GMARCH以上の大学に受かれば、どうにかなる!」
といった進路に対するアドバイスも(少なくとも)思春期以降の子どもたちには効果はないということです。
子どもを「恐怖と不安」で駆り立てようとしない
子ども思いの保護者さまほど、ご自身のお仕事の話をする際、ついつい社会の厳しさをお子さんへ伝えてしまいがちです。
<お子さん思いの保護者さまにありがちな良くない事例>
●ダメな内容 お子さんを「恐怖と不安」で駆り立てようとしている
「履歴書を即シュレッダーにされるような人間にはなるな」
「仕事ってのは、苦労が絶対ある。その苦労を乗り越えてこそ他人はついてくる!」
「うちの会社でも、AI導入が本格化してきた。そのうち、シンギュラリティがくると、AIに仕事とられてしまう」
(だから、今のうちに、しっかり自分の得意分野を磨いて、AIに負けない人間になれ!)
●ダメな理由:お子さんは怖い話は聞きたくないからです。
そもそも将来を考えるのが不安になっている中学生・高校生の子どもたちに“自分事”として、
「厳しい社会に出ること」や「シンギュラリティや少子高齢化に挑んでいく」という将来のリスクを想像させ、
そのリスクを回避するために「恐怖と不安」を原動力とし“近い将来”をどうするか考えさせるのは、現実的ではありません。
お子さん思いの保護者さま(と進学塾)ほど
「努力をし、良い成績を取り、良い学校に行けば、良い会社に勤められる」という「令和なのに昭和的な価値観・社会観」をお子さんへ伝えてしまっています。
これは、確かに真実の側面もありますが、それが社会のすべてというわけではありませんよね。
現在は、「努力とは何か? 良い成績とは何か? 良い会社とは何か?」という定義から揺れ動きつつある時代です。
例えば、中学生・高校生のお子さんにとって中間目標となる大学受験に求められる努力の質も変化していっています。
大学入試そのものが変化しているからです。(不登校・勉強嫌いもAO入試は目指せる①「保護者さまの心構えについて」 の記事もご覧ください)
しかしながら多くの中学生・高校生の子どもたちは、この「令和なのに昭和的な価値観・社会観」を真に受けています。
そして以下のように解釈をおこないます…
・自分は現状、学校に適応できていない・努力できていない・成績が悪い
↓
・よって自分は良い(偏差値の高い)学校に進学できない
↓
・ゆえに自分は良い会社へは就職できない
↓
・自分の人生は負け組になることが確定しており、もはや何をやっても無駄である
明らかに間違った結論なのですが、「 令和なのに昭和的な価値観・社会観」を真に受けた子どもたちは、上記の想いを異口同音に語ってくれます。
(外部サイトとなります)こちらの記事も参考になるかと思います。
キーワードは、“すりガラス越しの闇”です。
意識高い保護者さまの落とし穴 「恐怖と不安」のストーリー
本章の内容を1分でまとめました!
「意識高い」話をする保護者さまなら、社会の最新情勢をお子さんへ伝えられるから大丈夫かというと、そこにも落とし穴があります。
私も、よくこの落とし穴に落ちそうになるのですが……(笑)
子どもたちの将来が心配だからこそ、
増え続ける自然災害……目を背けられない「少子高齢化」「子どもの貧困」
何世紀も終わらない「パレスチナ・中東問題」……
こういう世の中のシリアスな現状を伝えたくなりますよね。
例えば……
<意識の高い保護者さまあるあるの不安>
産業構造の変化によって社会が求める人物像は常に変化し、若者に求められるスキルも変化している……
受験も2020年以降には、大学入試の内容そのものが変わっていく……
つまり、既存の学校教育ができても「それで人生すべてOKではない」……
ゆえに、我が子には科目勉強をやるだけでなく、意識の高い社会課題解決の意欲とか、起業家精神をもってもらわないと……(以下続く)
要は「社会は大変だから、社会に出ると戦わないといけない」という「恐怖と不安」のストーリー……ですよね、
不登校で傷ついたり、無気力の状態にある子どもたちが「恐怖と不安のストーリー」を聞いて、「よし、頑張ろう!」と発奮し、行動を変えることはありません。
まだ本当の社会に出ていない子どもにとって学校は世界の全てです。
その学校(=世界の全て)で何かしらの挫折経験をもった子どもに対して、「学校以外の世界もさらに残酷なんだ……!」と伝えるのはNG。
アニメ・マンガの中でシリアスな展開を見るのは「他人事」なので大丈夫ですが……(中には、それすらツラい子どももいます )
しかし、子どもたちへ「現実世界」のことを「自分事として考えろ!」と言ったとたん、
お子さんは「えー…… 大変そう」と逃げてしまうか、「あ、説教きた」と、どちらにしても大人の視界からフェイドアウトしてしまいます。
それでも、ご家庭で「どうしても社会の厳しさを伝えたい!」「子どもにこの社会課題について考えてほしい」のであれば、シリアスで暗い雰囲気で話してはいけません。
お子さんが明らかにネタだと分かるくらいに、完全にネタに走ってください。
具体的には「仕事仲間と乾杯した一番おいしいビール」の話を軸にしながら、そこに仕事の厳しさや、社会が直面している社会課題を少し織り込んでください。(あとで詳しく説明します)
お子さんが進路を楽しく考えるために必要なSTEP
「自立に必要な4階構造」
ご家庭で中学生・高校生のお子さんが進路を楽しく考えるためには必要なSTEPがあります。
最初は、「自立に必要な4階構造を組み上げよう」です。
「子どもが自分の将来を自ら考えてるためには、「自立に必要な4階構造」を完成させることが前提として必要だ。これがビーンズの考え方です。
「子どもが自分の進路を自ら考える」というテーマにおいて、特に強調したいのは「自立に必要な4階構造 」の1階と3階です。
ファーストステップは家庭を「絶対安心の場」にすること
まず「自立に必要な4階構造」の1階、「絶対安心の場である家庭」です。
今回の記事では、ご家庭で中学生・高校生のお子さんに進路を考えてもらう呼び水となる色々なコツをお伝えします。
ただ、どのコツを実施するにも、「良好な親子関係」、「親子の会話量」があることが前提となります。
子どもたちは、社会に対して情報が不足しており、かつ自分の進路を考えることについて不安を抱いています。
ですので、まずはお子さんにとって「ご家庭を絶対安心の場」にして、親子の会話量(雑談量)を確保し、お子さんが進路に対する本音…「自分の弱さと向き合った結果の本心」を話せるような環境づくりをお願いしたいのです。
それからお子さんが社会に興味を持つ「楽しい」情報を伝え、お子さんが進路を考える際の不安を取り除き、お子さんがご家庭で気軽に社会や進路について話せる時間を増やしてあげてほしいのです。
「【中学生・高校生のお子さんが不登校・引きこもりになったら……】まずは親子の会話量を増やそう」の記事で、お子さんにとって「ご家庭を絶対安心の場」するコツをまとめています。
青春経験
"自分事"を引き受け、自分の進路を考えたした先に明るい将来がある…この納得感をもつことで進路を考えるモチベーションは生まれます。
もちろん
「進路を決めないと大変なことになる」
といった恐怖と不安をモチベーションに変えられる人間もいるにはいます。
が、ごく少数です。
そして、仮に恐怖と不安をモチベーションに変えられたとしても副作用が大きいです。
子どもたちが「自分の進路を考えたした先に明るい将来がある」と思えるようになるために必要になってくるのが4階構造の3階「青春経験」です。
今、多くの中学生・高校生が
「本心を言える相手がいない」
「仲間と一緒に目標へ向かってチャレンジした経験がない」
その状態で中学3年生、高校3年生の時期が来ると、急に社会から「自分の進路を決めろ」と言われます…
本来、子どもたちは、それぞれの青春を満喫した後に
「青春を楽しめたということは、今後の将来も楽しいかも」という予感が生まれ、
↓
「どうせなら、将来も楽しくしたいな」という希望が生まれ、
「そろそろ自分の将来のために努力するか」という気持ちが生まれ、
↓
「さて、ビーンズの先生に進路について相談するか」
と、思えるようになるのです。
詳しくはコチラの記事もご覧ください
ビーンズでは進路について考えるとは「自分がどの進路を選べば楽しめるのか」について考えることとしています。
そして、自分自身の「楽しさ」を求めるためには
- 青春経験を通して自分自身の長所や短所を受け入れ
- 自分の本心を言葉にして他人に伝えることができるようになって
それから自分の将来に関連する社会や将来に関する情報を吸収していく必要があります。
中学生・高校生のお子さんからみて「遠い将来」「他人事」から考える
「自立に必要な4階構造」の1階から3階まで組みあがったら、いよいよご家庭でもお子さんの進路を話し始めるタイミングです。
この時のポイントは、
- 「雑談の延長」の雰囲気で始める
- 子どもにとって「遠い将来」の話題を選ぶ
- 子どもに自分の将来を考えさせない あくまで「他人事」の話題で気楽で自由に話し続けられる話題を選ぶ
です。
繰り返しになりますが、お子さんは「将来のことを考えること自体が不安」という場合も多いのです。
大人だって自分事の進路を考えるのは大変です。社会で少なからず傷ついた失敗経験のあるお子さんであれば、なおさらです。
ですので保護者さま、ご親戚、テレビの向こうの有名人などなど…… 他人の進路をネタにして考えていくと良いと思います。
ビーンズでも子どもたち同士でグループ作って、他人の進路について考えたり、
ゲストできた大学生の進路について聞いたり、相談(?)にのったりしています。
自分の進路については考えるのをいやがっても、「他人事」になると、打って変わって多弁になるお子さんも多いです。
親の職業観を思春期の子どもに伝えるコツ
子どもの「令和なのに昭和的なストーリー」を相対化する
ご家庭内で雑談量も増え…
「遠い将来」の社会についても話せるようになって…
「他人事」の進路について話すのも当たり前になってきた…
ここまできて、やっとお子さんと一緒にお子さん自身にとっての進路について語り合うべきタイミングです。
ご家庭で、お子さん自身にとっての進路について語り合う際に意識していただきたいことは、"子どもの「令和なのに昭和的なストーリー」を相対化する"ことです。
ビーンズに相談にくる子どもたちの多くが進学塾へ行き、そこで「令和なのに昭和的なストーリー」…の中でも特に学歴主義を信じ切った状態です。
さらに詳しく言えば「学歴が大事」「偏差値の高い学校が偉い」という考えを信じ込んでいながら、
「大学の楽しさは知らない」
「大学で勉強する内容は考えたこともない」
「大学生活でやりたいことも(特に)ない!」
という状態です。
ですので、ご家庭では以下のような話題について、できるだけカジュアルに話し合ってほしいと思います。
お子さんとカジュアルに話し合ってほしいこと
・大学生活で楽しいことってなんだろう?
・大学進学して出会える面白い人ってどんな人だろう?
・偏差値の高い大学へ行くといいことってなんだと思う?
上記のような話題を呼び水にして、彼らが持つ「令和なのに昭和的なストーリー」を彼らに話してもらい、それを大人が受容的に聞き入れること…
その時間が、子どもたちの「令和なのに昭和的なストーリー」を相対化する第一歩となるのです。
他人事・遠い将来として保護者さまがお子さんに仕事の魅力をプレゼンをする
保護者さまがお子さんに公務員になって欲しいと思っていた場合を想定してみます。
「将来、社会は不安定になるから公務員になりなさい!」
「将来の不安を回避するには公務員が一番だ!」
「公務員になるために学校に行って勉強しろ!」
というように「恐怖と不安」で子どもたちを駆り立てようとしても、子どもたちの心が動くことはありません。
そして、お子さんの心が動かなければ、行動は変わりません。
次に「学校教育で中学生・高校生の子どもが社会を知る機会は少ない」ので、中学生・高校生のお子さんは「公務員の魅力的なイメージ」を具体的に想像できません。
人間は、具体的に想像できないものに心は動かず、行動も変わりません。
私はこれを「子どもは、子ども自身が見たものしか信じられない」と保護者さまへお伝えしています。
「子どもが見たこともない職業へ、実際にその職業に就くために将来へむけて準備させる」…… そもそも無理ですよね。
だからといって、いきなりお子さんを市役所や霞ヶ関へ引きずっていって、公務員の仕事のすばらしさを伝えようとするのはおすすめしません。
まずは保護者さまがお子さんへ「どうして公務員が良い仕事なのか」というプレゼンテーションをして、公務員の魅力を伝えるようにしていただきたいのです。
ここで間違ってほしくないのが「説明、まして命令ではなく、プレゼンテーション」だということです。
お子さんの心を動かし、お子さんが行動を変え、お子さんが公務員へ向けて準備をしたくなるようなプレゼンテーションをする必要があります。
仕事の魅力をプレゼンテーションするコツは「他人事」「遠い将来」「楽しい」
いいプレゼンテーションを実施するコツはなにか。
欠かせない要素は「他人事」「遠い将来」「楽しい」です。
「他人事」なので、保護者さまご自身や、保護者さまのお友達の話などをするのが大切です。
「遠い将来」なので、(将来から逆算して大切な)来週のテストをどうするか!?という話はダメです(笑)
ビーンズだと……中学生には敢えて大学での研究内容や面白いサークル活動の内容を伝えます。
高校生には、もう少し具体的な職業、面白い大人の生きざまを伝えます。
そうすると、子どもたちが興味をもってくれるのです。
繰り返しますが「恐怖と不安」では子どもは動きません。
なので、逆張りをしていきましょう。
プレゼンテーションの最後のコツは、子どもにとって「楽しい」情報をプレゼンテーションの内容に盛り込むことです。
私の周りにも、小さい頃の「楽しい」「面白い」体験を動機として、今の仕事を決めた方はたくさんいらっしゃいます。
【小さい頃の「楽しい」「面白い」体験を動機に、仕事を選んだ例】
・好きな先生がいて、話すのがいつも楽しかったから自分も学校の先生を目指した
・工作が大好きで大工を目指した
・カッコイイ建物にあこがれて、実際に有名建築に行ってみて感激し、設計の道を目指した
・カッコイイ車を見て、実際に乗せてもらって、気づいたらメーカーを目指してた
・食べたケーキのおいしさに感動し、パティシエを目指した
見逃せない共通点は、過去の楽しい・面白い体験が仕事選びの原点」になっているという点です。
ですので「公務員プレゼンテーション」では
お子さんにとって「他人事」
お父さま、お母さまが公務員なら、お二人の話
お二人のお友達が公務員なら、その人の話
お子さんにとって「遠い将来」
公務員になるために必要な学力や、学歴の話ではなく、公務員の仕事内容の話
お子さんにとって「楽しい」
「社会が不安定。だから公務員に!」ではなく、
「公務員の仕事の面白さ!」や「公務員の仕事のやりがい」の話
大人の"当たり前"を話すときは「子どもの半径5センチメートル」を意識
保護者さまにとって「その業界や仕事の当たり前」を子どもへプレゼンテーションするときは注意が必要です。
例えば、保護者さまがたまたま公務員だったとして…
「公務員はやりがいがある仕事だよ」
「そして福利厚生もよいよ」
という事を伝えて「だから、公務員はいい仕事だよ」ということを子どもに伝えるのは、良い方法ではありません。
子どもが思春期以前から「公務員のやりがい」だとか「公務員の仕事内容」を知っている・興味を持っている場合は特に問題はないのですが、
そうではないとき…つまり子どもが思春期以降で、上記のことをよく分かっていない場合、
上記のような「〇〇という仕事は、やりがいがある仕事だよ」「福利厚生もよいよ」といった言葉は、
子どもたちにとって「この進路を選びなさい」と暗に言っているように聞こえてします。
もちろん親の立場として「こういう職業についてほしい」「そうすれば(きっと)子どもも幸せだろう」と願うのは自然な感情です。
ただし、思春期以降の子どもたちが、親から言われる(と、感じる)「この進路を選びなさい」というメッセージは、彼らからすると「親から押し付けられた」というふうに解釈されてしまうことがあり、
そうなると、彼らにとってストレス源になって、子どもの進路感、職業感に影を落としてしまいます。
また、親として「ぜひ〇〇の業界に入ってほしい」「××会社に入ってほしい」などといった期待はしておらず、数ある働き方・社会に出るための選択肢の一つとして提示しただけとしても…
子どもが「親はこの進路に行ってほしいに違いない」と思い込んでしまい、自ら進路の選択肢を狭めてしまうこともあります。
そういったことを防ぐために、大人から(思春期以降の)子どもへ仕事について話すとき、大事にしていただきたいキーワードが「子どもの半径5センチメートル」です。
子どもにとっての当たり前な「半径5センチメートル」の世界から話をスタートさせていき、その半径5センチから、少しずつ同心円状に子どもの世界を(彼らが18歳や20歳、もしくは22歳までに)広げていってほしいと思います。
仕事の話は楽しさベースで。「最高の乾杯」エピソードから伝える
子どもたちが将来のことを考える際にネックになるのは「将来・社会への情報不足」と「将来のことを考えるのが怖い」ことです。
そして、この段階で達成したいのは「令和なのに昭和的なストーリー」を相対化を推し進めることです。
ですので、このタイミングで保護者さまにご家庭でやっていただきたいことは、
・「社会の情報」をお子さんへ伝える
かつ
・「社会や将来を考えることの楽しさ」を伝える
です。
この時、お話しする内容は難しい話ではなく
「仕事でやりがいを感じた瞬間」
「仕事仲間との楽しいひと時」
「お客様から評価されたとき」
などのエピソードです。
これらエピソード群から中学生・高校生のお子さんが内容を理解し、笑ってくれるであろう楽しさベースの「鉄板ネタ」を厳選していただきたいのです。
おすすめは、保護者さまが「お仕事で成功して、とてもうれしかった時のエピソード・仲間と乾杯した一番おいしいビール」のエピソードです。
例えば…
「お母さんね、この前、任されてた仕事が一段落してね。そうしたら部のみんなで飲みに行こう!って。
お店についたら、なぜか取引先のお客さんもいて。みんなでお祝いしてくれたのよ。そう。有楽町のこのお店!
ね。お肉おいしそうでしょ。その時飲んだクラフトビール、キンキンに冷たくて美味しかったぁ」
子どもからしたら、お母さまの仕事という他人事ですし、なにより楽しそうな場面ですね。
“仕事”ということで、やもすると「子どものお前も、勤労意欲を持て!」という道徳教育的な雰囲気を子どもが感じ取ってしまうこともあるのですが、
お肉とキンキンのクラフトビールというというワードが楽しさ・冗談っぽさをひきたててよいですね!
なお、お子さんにストーリーを理解してもらいやすくするためには、少し話のスジを変えたり、話の背景の補足をいれるとよいでしょう。
また、エピソードに関連する画像、動画、地図などをパソコンやスマホで子どもに見せながらだと、より臨場感をもって聞いてくれます。
2022年8月追記:教育ジャーナリスト おおたとしまささんに本記事に関連する内容を取材いただき、講談社FRaUさんにて掲載されましたので引用します。
「少子化、格差問題、非正規雇用、ブラック企業、環境問題……などという怖い話ばかりを聞かされて、いまの子どもたちは未来に対してまるで希望をもてていません。
親世代の想像を超えたレベルで彼らは絶望しています。同時に語られる親世代の"ふつう"と"偏差値"が"べき論"を構成し、彼らを縛っています。
だからものすごく保守的な価値観をもっている子どもが多い。それは、高校生のなりたい職業の一位が公務員であることからもわかると思います。
それなのに他方では、勉強ができるだけでなくてもっと主体的に協働的にそして創造的にならないとこれからの先行き不透明な時代には生きていけないぞと脅されて、始める前から『もう無理だよ』と思ってしまうわけです。『落合陽一にはなれないよ……』みたいな」
じゃあどうすればいいか。
「僕らは『雑な話』をしてくださいって言っています。
保護者が自分のリアルな仕事の話をするのはオッケーです。
たとえばこのまえ大型案件の受注が決まったんだよねと。でね、相手の会社の担当者も喜んでくれて、いっしょに飲んだんだよ。ビールをね。銀座でね。そのビールがサイコーだった!って。
子どもでも手触りが感じられるように、大人の世界の楽しさを語ってあげてほしいんです。競争社会の厳しさとか、仕事の社会的意義とか、意識高い話は要らないんです」
引用元:「雑な話」で子どもたちを勇気づけよう
KPIは「ヤバい」
エピソードの良し悪しの評価の指標…KPI(目標達成しているかを定義づける指標)は、保護者さまの話を聞いて、お子さんが「ヤバい!笑 」と何度言ってくれるかです。
お子さんが、「それ、ヤバ笑」って言ってくれることを目標にして、保護者さまの「鉄板ネタ」を練り上げてください。
お子さんが「それ、ヤバ笑」と言ってくれるのであれば、公序良俗に反しない限りであれば、なんでもOKです。
(品行方正な話よりも、ちょっとだけ公序良俗スレスレの話題のほうが盛り上がりますよ!)
先ほどの“シンギュラリティ”の話題も、「楽しさベース」で話すというコツさえ守ってくれれば、お子さんが身を乗り出して話してくれる内容です。
「“シンギュラリティ”でAIが人間より賢くなったら、人間働かなくなっていいんだって」
「ロボットとAIが働いてくれるから、人間は好きなことだけすればいいんだって」
こういう明るいトーンで、保護者さまが話した内容なら、子どもが食いつく可能性があがります。
(こちらの記事もご参照ください! 保護者さまの「独り言」から始めよう)
ビーンズですと、お子さんとワイワイやりながら、いろいろな社会状況をみんなで考えていってます。
どんなにシリアスな話題を織り込んだとしても、KPIは、何回子どもが「え、ヤバ!」と言ってくれるか。これをぜひ覚えておいていただきたいです。
