【後編】不登校「同世代も学校も怖い」中学生がチャレンジスクール受験で「自分と友だち」になるまで
もくじ
不登校「同世代も学校も怖い」中学生がチャレンジスクール受験で「自分と友だち」になるまで
前編では、
「人と関わりたいけど、怖い…!」という気持ちを抱えたももちゃんが、
ビーンズの授業や進路会を通して人とのつながりを作り、20名近くの人の力を借りながら巨大なアリジゴク作りをやり遂げました。
アリジゴクづくりの様子
長野天音(Nagano Amane)
愛称は「あまね先生」。高校卒業後ギャップイヤーを過ごした後、早稲田大学へ入学。ジャーナリズムを学ぶ。
”悩める10代”の保護者・生徒のサポートを行いながら、メンターとして新人研修を行う。その後、ビーンズのHR(人事)チームで「HR企画室長」に就任。インターン生が安心して活動できる環境づくりのため、研修制度や育成計画の改革などを行う。
2023年春からHRチームの最高責任者「HRDiv.リーダー」に学生として初めて就任。インターン生が「ありのままの自分で挑戦できる」チーム文化づくりに挑戦中。
生徒のプロフィール
(もちろん仮名)田螺藻々(たにし もも)
■趣味
絵を描くこと・ゲーム・電車やバスを乗り継いで自分だけのルートを編み出すこと
■ビーンズとの関わり
中学1年生の終わり頃ビーンズへ入塾。
ビーンズでのサポートを受け、この春、都立チャレンジスクール高校に合格!
ビーンズでのチャレンジクール対策
これがアリジゴク(これでも小さいほう)です
──アリジゴクづくりが終わって9月くらいからいよいよ進路を考え出したんだよね。
はい。でも最初は学校のことを考えるのもイヤでした。
教室のことを想像したら本当に嫌で。毎日教室に通って勉強するような場所は無理なんじゃないかなと思いました。
でも、よく考えてみたら高校の生活って楽しそうだなと思って。
自分でいろいろ調べてみたら、チャレンジスクールなら勉強も基礎からスタートするし、同じ境遇の生徒も多いから、自分にも通えるんじゃないかなって。
実際に高校に見学に行ってみたら、そこにいるみんなの雰囲気が自分に合ってるな〜と思いました。
──うんうん、そしてチャレンジスクール対策を始めることになった。ビーンズではまず、自己分析からやるんだよね
そうですね。
自分の生まれた時の最初の記憶から辿りましたね!
「わあ、自分ってこんな人間だったんだ……」というのが
「確かに、自分ってこんな人間だわ」と、だんだん自分のことが分かっていくのがすごく楽しかったです!
将来自分がどんなことをしたいのかもわかってきて、自分と同じように同年代へのコミュニケーションをとることが苦手な中高生に「人と関わるってすごく楽しいんだよ!」と伝える人になりたいと思いました。
志願申告書
──本当に素敵だね!そして、その自己分析をもとに志願申告書を書くんだよね。
志願申告書とは、志望理由や自己アピールなどを書いた出願書類です。チャレンジスクールは科目勉強の試験や内申点での審査がなく、志願申告書・面接・作文によって判断されます。
あまね先生や、塾長の長澤先生にたくさん手伝ってもらいました。
しんどかったのは、自分のことをありのままで見てほしいのに、思ってもいない部分まで書かなきゃいけないことです。
ありのままの自分を100%はだせないところ
自分のダメなところはあえて触れないところ
もちろん学校に評価してもらうためには仕方がないんでしょうが、私の性格と合っていなくて本当に嫌でした。
けど、そんな時に塾長との授業の中で「設定」という言葉に納得したんです。
将来の夢とかをある程度言葉にしなきゃいけないってことが一緒に文章を作っていく中でわかって、志願申告書に書くことや面接で言うことは、受験をするときのあくまで「設定」なんだって。なんか、すとんと腑に落ちました。
そこから、先生たちと一緒に自分が納得できる言葉を見つけていって、無事提出できました。
──志願申告書はももちゃんが納得できる言葉を探すのに苦労したよね…。
作文対策
──そして、すぐに面接対策と作文対策が本格的にはじまってきたけど、どうだった?
作文はみどりん先生に教えてもらいました。
ビーンズでは受験の際に複数の講師でサポートしていくことが多いです。受験対策中は生徒の状況が不安定になりがちであるため、タッチポイントを増やし役割分担をしながらサポートしていきます。
最初は自信がなかったし間違えるのが嫌だったけど、みどりん先生が優しく褒めてくれて、できたところを見てくれるので大丈夫でした。全部正解なことって書けないですし。
それから「おべんとうばこ」(作文作成のフレームワーク)を教えてもらって、書き方がわかったのですごく楽しかったです。
まずは一緒にみどりん先生と、「おべんとうばこ」を詰めていく、つまり文章の構成を考えることから始めてみました。
学んだ「おべんとうばこ」をいかして中学の卒業文集も初めて一人で書いてみたりできて、すごく楽しかったです!
──すてきだね!毎日作文の宿題が出されるのに対して、毎回ももちゃん独自の答えを考えてたりもしてたよね。
面接対策
──面接の対策はどうだった?
まず面接台本を作りました。
ビーンズには面接の想定質問集があって、それに自分の回答を先生と一緒に書きこんでいきました。
書くまでは、まあいいんですけど、それを暗記するのが嫌すぎて家の横にあるお墓で1時間半くらい踊りました(笑)
──おもしろ!!!(爆笑)
でも、ももちゃん、オリジナルの練習方法を編み出して本当に毎日頑張ってたよね!
そうでしたね。
面接台本の質問をルーレットアプリに打ち込んで、ルーレットが止まった質問が自動で読み上げられるようにしてみたり、自分の答えを録音して聞きなおしてみて不自然なところがないか確かめたりしてました。
──その結果、練習の時の答えはまじで完璧だった。すごい努力だよね…。そしてその方法を思いついた発想力もすごい。
試験前日、そして運命の試験日
──受験前日は緊張しすぎてずっと口角上がってたよね(笑)
そうなんですよね(笑)
前日は最後に塾長とあまね先生に面接対策をしてもらったんですけど、緊張しすぎてずっと笑顔でした(笑)
あと「ワクワクしてきた」というおまじないを教えてもらいました。緊張してるのは変わらないけど、「ワクワクしてきた」って思ったら緊張がいい方向に変わる感じがしました!
あとは、代表の塚﨑先生に前日の過ごし方を教えてもらいました!
教えを守って、ご飯をよく噛んで庭を走って...万全の状態で試験に挑みました。
──たくさんの人に送り出されて試験日を迎えたね…!別れ際に「ワクワクしてきた!」って何回も言いながら試験に臨んで行ったのが心に残ってるな。試験日はどうだった?
めっっっっちゃ緊張しました!!!
でも、作文の問題を見た途端「勝った……!」と勝ちを確信しました!!ビーンズで対策してた問題の方がもっと難しかったので!
その波に乗って、面接もノリノリでいきました!8割方、面接でされる質問集通りだったので「ビーンズすごい!」って思いました。
質問集に載っていない質問も、面接の練習の中で対策したので、特に不安なく終わりました。
──うんうんうん!本当にももちゃんが頑張った結果だね。終わった後はどうしたのかな?
ルンルンニヤニヤで親と待ち合わせました!
自信もあったし、勝ちを確信してました。
なにより自分でもびっくりするほど「試験、楽しかった!」と思えてたのが不思議な感じでした。
受験は「自分と友だちになる時間」
──そして、合格だね。こうして振り返ってみると、ももちゃんの変化に本当に感動しちゃうな。ももちゃんにとって、受験を振り返るとどんな時間だった?
「──自向自友──」
──え!なにそれかっこいい!意味教えて!!
自分と向きあって、自分と友だちになったってことですね。
受験もそうだし、同世代とのコミュニケーションもそうですけど、自分にはできることもできないこともある。
でもそうやって自分に向き合って、自分のことがだんだんわかってきて、自分の好きな部分も少しずつできてきました。
どうしても悲しかったり悔しかったりして落ち込む日もあったけど、そう言う時は溜め込まずに誰かに聞いてもらって発散しました。
それが成功の秘訣だと思います。
そうやって、頑張って自然と自分に自信がついていきました。
今は頑張ることも楽しいことだなと思います。
伴走したインターン あまねから
ももちゃんと初めて会った時、「同世代との関わりが本当に怖い」「だけど、人と関わりたい!!」という矛盾した二つの感情を強く感じました。
しかし、ビーンズで少しずつ人との繋がりの輪を広げていく中でももちゃんは「人と関わることって本当に楽しい!!!」と気づき、「喋れない自分」のことも認めることができるようになっていきます。
そして、受験という非常に精神的負荷が強い挑戦にいどみ、そのプロセスを楽しみ、そして合格を掴み取りました。
最後には、「努力が楽しい」「(人と関わるのが怖かったのに)落ち込む時は誰かに話を聞いてもらって発散する」と言えるようになるまでになりました。
ももちゃんのすさまじい変容は、なぜ起こったのでしょうか。
それは、「4階構造」と呼ばれる環境・条件をひとつひとつ積み上げていったからだと思います。
ビーンズでは子どもが「自立」するために必要な環境・条件を建物の構造に例えて定義しています。
※詳しくはこちらの記事をご覧ください。
1階「絶対安心の場である家庭」
まず、1階部分の「絶対安心の場である家庭」はこの4階構造の最も重要な土台となるものです。
家庭が子どもにとって安心してエネルギーを回復できる場所であることで、ようやく外の世界でチャレンジすることができます。
ももちゃんの場合、保護者さまへの面談を通してビーンズの考え方・方針にご理解をいただき、非常に協力的にももちゃんをサポートしてくださいました。
もちろんももちゃんへの関わり方に何度も迷い、悩み、葛藤しながらも、ももちゃんのぐるぐるした気持ちをいつも受け止めてくださっていました。
(今回のインタビューの中でも、ももちゃんが保護者さまに何時間も自分の気持ちを話したと言っていますね)
ももちゃんに気になる様子がある場合はビーンズに連絡をくださり、面談の中で相談くださったりすることも多々ありました。
ももちゃんがビーンズやその他の場所でチャレンジしようと思えた一番大きな要因は、ももちゃんの保護者さまがしっかりと家庭を絶対安心の場にしてくださっていたことなのです。
2階「伴走してくれる大人」
次に、2階部分の「伴走してくれる大人」です。
家庭でエネルギーを回復していざ外の世界へ漕ぎ出しても、そこには大人でも立ちすくむ荒波が待っていたりします。
そんな時に子どもを守り、導いていく伴走者…伴走してくれる大人が必要なのです。
ももちゃんにとっては私や他のビーンズの先生が「伴走してくれる大人」になります。
「伴走」の内容はインタビューでご紹介した通りなのですが、少し補足すると、
ビーンズでは、チームで役割分担して生徒へ「伴走」を行います。
例えば……ももちゃんの気持ちに寄り添う担当と、ももちゃんへ正論をお伝えする担当です。
別々の講師がそれぞれの役割を担うこともあれば、一人の講師が時期を変えて担うこともあります。
3階「青春経験」
そして、3階部分の「青春経験」です。
ビーンズでは青春を2つに分けて考えています。
放課後のんびりしながら友達としゃべるような「ゆるい青春」と、
大会優勝などの目標に向かって同世代のチームで頑張る「熱い青春」です。
この2つの青春経験を経て、子どもたちは、子どもたち自身の力で社会と関わっていく自信を得ていきます。
また、青春しきることで後腐れなく挑戦がスタンスがはぐくまれます。
ももちゃんにとっての「ゆるい青春」は、主にBFSの中での同世代とのコミュニケーションでした。
ボードゲームやおしゃべり、時には一緒に花火をしました。
また、アリジゴク作りで他の生徒・講師とトライアンドエラーを繰り返したことやマシュマロタワーで他のチームを抑えて優勝したい!と頑張ったことは「熱い青春」と言えるかもしれません。
4階部分「挑戦と努力」
最後に、4階部分は「挑戦と努力」です。
ここまで1階から3階までを積み上げてやっと受験や検定試験、友達作りを目指して努力することができるようになっていきます。
ももちゃんの場合は受験が一番わかりやすい挑戦です。
保護者さまの全面的な協力や、ビーンズでのサポート、青春経験があってやっとここに至ります。
だからといって、生徒たちが4階行けば、あとはすんなりと挑戦と努力を続けてくれる……というわけではありません。
受験期は多くの生徒たちの気持ちが不安定になります。
中には、大切な食器を割ってしまったり...壁に穴を開けてしまったり……。
しかし、ももちゃんの場合、
保護者さまが、「嫌なことは嫌」といった、ももちゃんの気持ちを受け止めてくださり…(1階「絶対安心の場である家庭」)
ビーンズの講師たちが、ももちゃんをチームで伴走し、ももちゃんも講師たちに本音を話せてくれていたこと…(2階「伴走してくれる大人」)
このように、ももちゃんにとっての「4階構造」がしっかりと組み上がっていたからこそ、彼女が受験で大きく不安定にならず、むしろ受験を通して彼女に内面にも大きな成長があったのだと思います。
改めて「4階構造」を含む ”悩める10代”のサポート方法をまとめた「ビーンズメソッド」のすごさを体感しました。
大学生インターンへのサポート
私が講師として、ももちゃんへサポートをしていく際、私たち大学生インターンが「ビーンズメソッド」にのっとって生徒たちをサポートしていけるように、サポート体制が整っていることもありがたいと感じました。
(講師として生徒の前に出る前に)インターン生は「ビーンズメソッド」を体得するための研修をうけます。
研修、そしてテストが終わり、晴れて講師として活躍し始めてからも、毎月生徒のサポート方針を担任や教室長と相談する面談があります。
特に、受験生の伴走には代表・塾長・教室長の力を借りながらサポートしていくことができるので、とても心強いです。
さらに、ビーンズ全体の雰囲気として、ふとした時に「最近どうよ?」と声をかけあうチームの文化と関係性ができてますので、何かあれば雑談の延長線上でいろいろ話をしたり、聞いてもらったりしてもらえます。
生徒の変化を間近で見て
私自身 4年間不登校だった経験もあり、ももちゃんの「他者への恐怖と渇望」は当時の自分とも重なるもので、一層力が入りました。
ビーンズに来た当初、ももちゃんは
「人と関わりたい。でも怖い。ありのままの自分を出すのは恥ずかしい」
と強く思っていました。
そのももちゃんが、ビーンズの中で他人とつながりを増やし、自分と向き合って、自分を許容し、変化していく様子を間近で見させてもらって、「人間ってこんなふうに変わっていけるんだ」と改めて思えるようになりました。
インタビューでも出てきていたBFSやアリジゴク、受験での変化ももちろんそうですが、他の生徒の誕生日を覚えて手作りのプレゼントをあげたり、BFSの中で全体を盛り上げようと茶々を入れてくれたり…という変化にも感動しています。
きっと、以前のももちゃんなら「そんなことしたらみんなにどう思われるだろう...」と恐怖で立ちすくんでしまっていたと思います。
でも今では「怖いけどやってみよう」と勇気を出してチャレンジできるようになりました。
そして、先日BFSの中で茶々を入れてくれたことについて聞いてみたら「だって、みんなが楽しいって思えた方がいいじゃないですか」と答えてくれたことも、私にとって本当に尊い変化です。
インターンも伴走によって救われる
そして、ももちゃんへの伴走は、伴走する側である(インターンの)私も救ってくれました。
一番救われる気持ちがしたのは、私のある質問への、ももちゃんの回答でした。
チャレンジスクールの面接対策も佳境を迎えていたある時のこと、そろそろ簡単な質問では歯ごたえがないなと、ちょっといじわるな質問をしてみました。
そこで「不登校児童が昨年・一昨年と過去最高を記録していますが、どう思いますか?」と聞いてみたのです。
ももちゃんは
「不登校の人が増えることは別に問題じゃないと思います。」
「不登校の人数が増えた理由には、不登校に理解がある人が増えた面もあると思います。」
「学校でしか味わえない経験があるのと同様、不登校でしか味わえない経験もあります。そしてその経験は貴重な経験だと思います。」
「不登校を経験した人が増えることは、社会にとってポジティブな意味もあると思います。」
と答えてくれました。
正直、私は不登校児童の増加は大問題だと思っていたので、この回答に面食らいました。
前編でも既にお話ししてきた通り、ももちゃんも不登校でしんどい思いもしてきています。
高校受験までの道のりも、決して平坦ではありませんでした。
それでも、ももちゃんは自分の経験をすべて踏まえたうえで、
「不登校人数の増加は問題ではない」
「不登校経験には意味がある」
と心から言っていたのです。
その一言に、元不登校児童だった私は救われるような気がしました。
私は、高校でいわゆる「ふつう」の高校に毎日通って卒業した後も、努力して大学に合格した後も、どこかで不登校だった自分を認めることができず、自分が「増加している不登校児童”問題”」の一端であるような気がしてしまってました。
でも、ももちゃんの発言は「不登校であろうと、自分は自分でいい」と言ってくれているのだと救われるような気持ちになりました。
こんな発言ができるほど、ありのままの自分を認めることができたももちゃんは、きっとこれから先、うまくいかないことがあっても自分のマイナスな部分を認め、誰かを頼ることができると思います。
この素敵な変化に伴走できてとても幸せだと感じています!!
ももちゃんありがとう!